東京地方裁判所 昭和40年(ヨ)2198号 決定 1965年7月09日
申請人 映演総連大映労働組合
被申請人 大映株式会社
主文
被申請人は、申請人が別紙のとおりの申請人組合員給与改訂を交渉事項として昭和四〇年七月一日被申請人に申入れた団体交渉につき、申請人がその代表者たる石井勝一及び交渉権限を与えた秋山辰雄、柿崎光男、細川啓一、上原清治、長尾長を交渉委員に参加させることを嫌忌することによつて、右団体交渉を拒否してはならない。
前項の団体交渉の第一回に関しては、被申請人において交渉人員数につき申請人の意見を聴いた上、相当な日時場所をすみやかに指定することができる。
(裁判官 川添利起 園部秀信 西村四郎)
(別紙)
一、昭和四〇年度昇給並びに賞与
1 昇給
新標準賃金表による昇給額 一、三三三円
定期昇給 中労委モデル賃金対比是正金 六一三円
計 一、九四六円
一律均等 一、二〇〇円
特別昇給 全体の是正金 四三円
計 一、二四三円
中途入社者の是正 当社の臨時雇、日給制契約者、月給制契約者であつた時からの年数(但し、一〇年をもつて打切る。)
により、当社モデル賃金と比較して是正する。 一三四円
合計 三、三二三円
2 賞与
上期賞与―一人平均五〇、〇〇〇円(現賃金に対し一七・四%強に相当)
下期賞与―二〇〇%を最低保証する。
二、昭和四一年度昇給並びに賞与
1 定期昇給(新標準賃金表による)特別昇給に合わせて一人平均二、〇〇〇円を保証する。
2 賞与
上期賞与=一五〇%
下期賞与=一七〇%
を最低保証する。
三、昭和四二年度昇給並びに賞与
1 昇給
定期昇給(新標準賃金表による)特別昇給あわせて一人平均二、〇〇〇円を保証する。
2 賞与
上期=一五〇%
下期=一七〇%
を最低保証する。
註 客観情勢は明年から減俸時代に立至るが、その場合に於ても二、〇〇〇円の昇給は最低保証する。万が一にも社会一般の昇給がこれを上廻るような場合には、その上廻る金額をこの二、〇〇〇円に上載することを約束する。
四、労働条件
従来一週間、実務労働時間四二時間であつたが四〇時間に短縮する。
月曜日から金曜日まで一日実務労働時間七時間
土曜日は一日実務労働時間五時間
右は撮影所に於ては撮影開始を午前九時とし、撮影終了を午後五時(土曜日は午後三時)とする。
他事業場は午前九時より執務開始、午後五時(土曜日は午後三時)執務終了とする。
(七月一五日より実施)
仮処分命令申請書
申請の趣旨
一、被申請人は申請人が、昭和四〇年度賃金改訂及び、組合役員六名の解雇撤回を議題として、五月二十二日以降申入れている団体交渉に誠意をもつて応じなければならない。
二、被申請人は、石井勝一、秋山辰雄、柿崎光男、細川啓一、上原清治、長尾長が交渉委員として参加する申請人組合との団体交渉を拒否してはならない。
三、申請費用は被申請人の負担とする。
との裁判を求める。
申請の理由
一、当事者
被申請人は、映画の製作、配給を主たる営業とする会社であつて、肩書地に本社をおき、東京、京都の二ケ所に撮影所を関東(東京)北海道(札幌)中部(名古屋)関西(大阪)九州(福岡)の五ケ所に支社を有し従業員約一、七五〇名を擁している。
申請人は、右会社の従業員をもつて組織された労働組合であり、映画演劇労働組合総連合(略称映演総連)に加盟している。
二、団体交渉拒否に至る経過
申請人組合(以下組合と略称する)は、昭和四〇年三月十五日、被申請人会社(以下会社と略称する)に対し
(一) 昭和四〇年四月以降ベースアツプ七、〇〇〇円(一律六、三〇〇円基準賃金比七〇〇円)
(二) 定期昇給五パーセント(一、五五七円)
(三) 途中入社者の賃金是正
(四) 学歴交錯短縮と賃金是正
その他五項目にわたる諸要求を提出した。
右要求にもとづいて四月五日、同十五日の二回にわたり経労協議会が開かれ会社から賃金是正六一三円、定昇一、一四四円の回答がなされたが、組合はこれを拒否し団体交渉にもちこまれた。
団体交渉は、四月二三日、同三〇日、五月七日の三回開かれ会社は前記回答にベースアツプ一、二四三円を積みあげたが組合はこれを不満として、妥結をみなかつた。
組合は四月一四日にスト権九〇・五パーセントの賛成投票をもつて確立し、同月一六日以降時間外拒否斗争に入り、同月二三日以降五月二二日までの間に六波にわたる時限ストライキを行つた。
これに対し会社は、五月二一日未完成のフイルムを搬出し社外でこれを完成しようとしたので、組合がこれに抗議しピケツトラインを引いたところ、会社は同日午後三時半東京撮影所のロツクアウトを宣言した。更に翌二二日午前六時五〇分約三〇〇名の警官隊が会社の要請によると称して東京撮影所に乱入し、平和的にピケを張つていた組合員を実力で排除し、会社と一体となつてフイルムを搬出した。
そうして午前九時フイルム搬出が終了するや、会社はロツクアウトを解除し直ちに組合の本部三役(石井勝一、秋山辰雄、柿崎光男)及び東京撮影所支部三役(細川啓一、上原清治、長尾長)計六名の懲戒解雇を発表した。
三、団体交渉の拒否
組合は五月二二日の解雇発表直後、会社に対し口頭をもつて(一)従前から交渉してきた賃金改訂問題(二)組合役員解雇の撤回(三)警官導入の責任追求を議題とする団体交渉を申入れ同月二四日には文書をもつて同様の申入れを行つた。
これに対し会社は同月二四日組合に対し、今般懲戒解雇した者が出席する団体交渉はもたない。七日回答しその後組合が同月二七日、六月五日、同月十日、十九日の四回にわたり同様の団体交渉を申入れたにもかかわらずいずれも同じ理由をもつてこれを拒否しあるいは、これを黙殺する態度をとりつづけている。六月三〇日の団交申入れも拒否している。
被解雇者の団体交渉参加が団交拒否の正当な理由とならないことは現行労組法の建前からみてあまりにも自明であり会社の態度は憲法第二八条及び労組法第七条第二項に保障された団体交渉権の侵害である。
四、よつて申請人は被申請人に対し団体交渉応諾義務履行請求の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、本案訴訟の確定をまつていたのでは、急迫な強暴にさらされ、回復しがたい損害をうけるおそれがある。
すなわち、被申請人は、一方で前記の如く申請人との団体交渉を拒否しながら、他方では、一部の組合員に働きかけて、組合組織の分裂をはかり、六月二六、七日頃九州、大阪、中部、北海道の営業支部の組合員が脱退して新組合を結成し、さらに同月二八日、東京撮影所の一部組合員が脱退して再建同志会なる新組織を結成するや、ただちにこれらの組織の代表者と交渉をもち、三年間の「安定賃金」と大巾な合理化を前提とする平和協定を締結した。そうして、申請人組合にとどまる限り、賃上げは実施されず、組合員は不利益な取扱いをうけるであろうことを明らかにして、申請人組合の切崩しと新組織の育成をはかり、そのため脱退者が急増している。このままに推移すれば、申請人組合が回復しがたい損害をうけ、場合によつては、組合の存立そのものを危くされるおそれがあるので、本件申請に及んだ次第である。
なお、この種の仮処分を認容した事例としては、品川白煉瓦事件(岡山地裁昭二五・五・二六決定)、阪神電鉄事件(大阪地裁昭三〇・四・二一決定)、福井交通事件(福井地裁昭三四・三・一六決定)等多数がある。